ごみ箱を覗いて見る人なんてないですよね。
| 芽を吹いてみな水平にもみじの葉 | どの竿も緋鯉は下に鯉幟 | 山里や消えて久しき鯉幟 |
| 山里や一匹だけの鯉幟 | 掘り出され身動きならぬ寒蛙 | 相合傘雫を拾う若葉雨 |
| 波紋来て笑いこけたり花菖蒲 | 若葉影二つの影を包みをり | 若葉雨二人を寄せる女傘 |
| 若葉雨二つの手になる女傘 | 若葉雨肩の触れあふ赤い傘 | 紫陽花の色増すほどに剪られゆく |
| 風鈴に息吹きかけて諦める | 風鈴の鳴らざる午後の玉の汗 | 風鈴を吹いて忘れる鬼の影 |
| 風鈴を吹き鳴らすとき諦観す | 風鈴の鳴らざる今日の午後の街 | 青空に初ひまわりの黄色かな |
| 夜勤明け足取り重し月見草 | 青天に初ひまわりの黄高し | 初蝉や一声残して松の闇 |
| 畑打つ露けき膝に雫汗 | 実を付けざるも生き延びる胡瓜 | 寸緑を空に向けをり枯れトマト |
| 枯れトマト倒れて寸緑天を向く | 秋風を突き抜け一着テープ切る | 秋風や仕方なく飛ぶ黄蝶あり |
| やせ我慢日焼けの肌に秋の風 | 半袖の日焼けの腕に秋の風 | 秋風や散りゆく花に咲く花に |
| 秋風やテールランプが光増す | 秋風や日に日に目立つ赤青黄 | 秋風やブレーキランプの増す光 |
| 境内の隅に夜店の秋祭り | 秋祭り苅田を渡る太鼓の音 | 神ならず人に会はむと秋祭り |
| 神主の撥の捌きや秋の調 | 鎮守より秋の調べの撥捌き | 境内に夜店ひとつの秋祭り |
| 里の秋夜店ひとつの宵祭り | 椋鳥よ梢に残す熟柿三つ | 東雲の空に先発コハクチョウ |
| ひよ叫ぶ寝坊の予定を狂わされ | 目覚むれば母の旋律葱刻む | 汁椀を覗きて満足葱多し |
| 夫婦して葱の皮剥ぎエア噴射 | エア噴射葱の皮剥ぐ老夫婦 | 葱刻む母のリズムや朝餉どき |
| 黒々と下向く列や吹雪舞う | 吹雪去る電柱片面厚化粧 | 捨てられし自転車凍死駅広場 |
| しぐるるや急ぐ駅道傘重し | 床の間の近火見舞いの酒一本 | 一升瓶近火見舞いと書かれをり |
| 剃るときはいつも顎から福寿草 | 退院の許可出たと告ぐクリスマス | 退院の許可の電話のクリスマス |
| 元旦やいつもの頬から剃りはじめ | 声弾むゴルフの予約日脚伸ぶ | 声弾むゴルフの誘い日脚伸ぶ |
| 弾む声誘う友あり日脚伸ぶ | 冴え返る今朝も頬から剃り始む | 吹雪く夜長野の空を思い遣る |
| 吹雪く夜白馬の明日を思い遣る | 紅梅や見る人もなく散り始む | 流感のくすり眠たや春隣 |
| 清水金歓喜感涙冬日本 | 冷気裂く素振りの唸り春隣 | 別れ雪連れ立つ鳥の速さかな |
| 風光り廃船舳先直に立つ | 春の闇帰る道筋間違わず | ほほえみにほほえみ返す春の風 |
| たんぽぽや小学生の列乱れ | たんぽぽや背中で踊るランドセル | たんぽぽやじぐざぐの列通学路 |
| 湯気の中湯に首浮けりたんぽぽ湯 | 別れ雪連れ立つ二羽の速さかな | かげろへる歩道の鴉闊歩せり |
| 初蝶は黄色なりけりフェアウェイ | 春眠やビルのしじまのあけがらす | 春眠の町のしじまの明け烏 |
| 吹き上がる蒲公英の絮謝恩会 | 梢より声ころがせて春のひよ | 初音とて三日も経てばうまくなり |
| 草餅や手術成功妻還る | 初蝶や白くころがるフェアウェイ | 春耕や幼虫裸体で飛び出せり |
| 裏通り傘をかすめて初つばめ | 春雨や開かぬ封書捨てにけり | 春雨や電話のベルの鳴るまかせ |
| 衣更え歩いてみたく街に出る | 迷い蝿追い逃がしやり筆を取る | 胃検診無事に済ませり梅雨晴れ間 |
| 蛍より子の足元に目を配り | 万緑を浮かべて淵の深緑 | 胃検診事無く終へり梅雨晴れ間 |
| 青鷺や特急列車見上げをり | 夏鴨や重たき胴を運びゆく | 合歓の花杖の老女の腰伸ばす |
| 一声に応えて一声闇の蝉 | 片影を拾ふ人影急がざる | 瀬戸の瀬と流れ競ひし天の川 |
| 白桃や撫でるお尻の柔らかさ | 流灯や悔し涙の波に浮く | 新涼や剃り残る髭捻じれをり |
| 新涼や剃り残る髭白かりし | 枝豆やつまめば飛び出す舌の上 | 秋暑し挨拶夏と変はらざる |
| 虫時雨東の窓に西の窓 | 畦道に案山子寝かさる帽子とり | 着飾りて人呼ぶ案山子商店街 |
| 名月や学術講演癌予防 | 秋冷や餌場へ急ぐ明け鴉 | 草じらみ避けて野道の人となり |
| 燈火親し棋譜を片手に碁石置く | 燈火親し碁石高鳴る敵討ち | 木枯らしや蛇口の水の手に温し |
| 老楠のにわかに騒ぐ初霰 | 嶺々に鉄塔配し山眠る | 初雪や夕日の色に染まりゆく |
| 訪ふひとの絶えて枯淡の眠る山 | 洟かみて勝利のパット決めにけり | 終電車となりに水洟すする音 |
| サドンデス勝利のパット洟かみて | 洟かみて勝利のパットサドンデス | 受話器からいきなり水洟すする音 |
| 受話器からいきなりくさめ響きけり | 捨てまいぞ我が家の歴史古暦 | 優勝の月日を印す古暦 |
| 優勝の月日忘れず古暦 | 碁仇や新手浮かばず年暮るる | 寄鍋や白い手ごつい手小さい手 |
| 駆け引きの新手浮かばず年暮るる | 雪道やいつとはなしに急ぎ足 | 小走りの人に釣られて雪の路 |
| 粉雪や葉の形して盛り上がり | 小走りの人に釣られて雪の街 | 粉雪のふっくらとして葉の形 |